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アート/ART 

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抽象絵画とは

抽象絵画(非対象絵画)アブストラクト・アート

抽象とは
「物」や「こと」の、ある要素や側面、性質を引き出して捉える思考作用(認識作用)。対象の本質的な要素や特徴を抽出すること(抽象)は、同時にそれ以外の非本質的で個別的な要素を捨てることでもあります。この“捨てる”はたらきを「捨象」と呼び、抽象と捨象によって、それが何であるかが把握されるのです。

例)「人の顔」というものをどのように捉えるか 
   顔を形作っている要素を引きだす(抽象)→ 目と口は横、鼻は縦
   個人的な特徴を除外(捨象)→ しわの有無、ホクロの位置、色つや
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抽象絵画とは  

マティスを始めとするフォーヴィスム(野獣派)の画家たちは、現実がどんな色であろうと関係なく、現実からかけ離れた色彩で作品を描きました。又、ピカソとブラックによるキュビスム(立体派)は、立体物の解体と再構成を通して物の形を追及しました。その結果、何が描かれているのか判別ができない程に具体的な形が画面から消失してしまいました。フォーヴィスム、キュビスムによって現実に隷属せず、現実から自立した絵画独自の世界が作り出され、それが更に推し進められて「色」も「形」も自由で、非対象、非具象を目的とした抽象絵画が描かれるようになりました。
次第に再現すべき対象を失っていくモダンアートの流れがあったのです。

・抽象絵画とは、現実の再現(写実)を行わず、具体的な対象(自然や物)を描かない絵画です。
・抽象絵画とは、純然たる造形要素である点、線、面(色面)、幾何形体によって描かれ、現実に依拠しない「自律した絵画の世界」を表現する絵画です。

抽象表現とは

・具体的な物や目に見えた情景をモチーフにしてそれを簡素化、変形したりして、元は何であったのか分からないような形で表現
・画家の内部にある純粋な形を対象物なしに表現

抽象絵画において色と形は画家の想像力と知性によって創り出されます。現実の事物を描写する役割から解放され、それ自体が表現力をもった造形要素として用いられます。
              
抽象絵画の種類と先駆者

抒情的抽象(熱い抽象)  カンディンスキー

色彩や線の表現力を活かし、動きのある構図や有機的な形によって感情や精神的なものを表現(抒情)します。有機的・表現主義的な特徴から「熱い抽象」と呼ばれます。

幾何学的抽象(冷たい抽象) モンドリアン

○△□などの幾何学形態によって、純粋な造形を表現します。主知的で無機的な特徴から「冷たい抽象」と呼ばれます。



次回はカンディンスキーを紹介します。
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テーマ:アート - ジャンル:学問・文化・芸術

熱い抽象「カンディンスキー」‥Ⅰ

ワシリー・カンディンスキー(1866~1944年) ロシア
     
【抒情的抽象画・熱い抽象】

抽象絵画の創始者として知られています。モスクワ大学で法律を学び大学の講師をしていましたが、30歳の時に印象派の画家モネの作品に出会い、その影響で画家を志すようになりミュンヘンに移住しました。ミュンヘン時代に体験したある出来事が、具体的な対象を描かない絵画の成立を確信させ模索を始めました。そして、造形的要素である色と形だけで表現され現実を再現しない絵画、抽象絵画(非対象絵画)が生み出されました。

画家を志す契機となったモネ(印象派)の作品《積み藁》1891年 

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1895年にモスクワで開かれた印象派展でモネの《積み藁》シリーズの1点を見て、何が描いてあるのか理解できなかったにも拘わらず、色彩それ自体の表現力に感動し、無対象絵画の可能性を確信しました。

一つのある体験が抽象絵画を描くことに向かわせた

「自分の絵を駄目にしているのは対象である」

外出から帰ったカンディンスキーは、自分のアトリエに、これまで見たことも無いような「神秘的な輝きに満ちた美しい作品」が置いてあるのを見て驚きました。誰の作品だろうと近づいてよく見ると、それは彼自身が描いた馬の絵で、横倒しになっていたためすぐ分からず、見たこともない絵と思いこんでしまったのです。いったんそうと分かってしまうと、先ほど感じた美しい神秘的な輝きは消えてしまい、それから後はいくら絵を横倒しにしても、逆さにしても、馬の形が眼について、純粋な色の美しさを感じることはできませんでした。この体験から、カンディンスキーは絵画の真の美しさを味わうためには、馬の形が邪魔であるということを学びました。

「対象は、絵画の真の美しさを観る者に伝えるのに邪魔になり、その存在は絵画の美しさにとって有害である」

抽象絵画に至るまでのカンディンスキーの課題

・画面から対象を無くしても、「秩序ある絵画世界」を作り出せるのか
・無くなった対象の代わりに何を描くのか

抽象絵画で何を描こうとしたのか

・色や形のような眼に見えるものを通して、眼に見えない画家の内面「精神的なもの」を、
 具体的な対象を描かずに表現する。
内面から沸き出てくるイメージ「内的必然性」によって、点、線、色面の純粋な造形
 要素だけで表現された絵画を創出する。
・「美術は、直接感覚に訴え物語を語る必要のない音楽のようなものでなければなら
  ない」色彩は音と同じ方法で用いることができるから、音楽に似た絵画を描く

【カンディンスキーの作品の題名について】  音楽の用語と共通

印象(インプレッション)‥‥「外的な自然」からの霊感を素早く描いたスケッチ。
即興(インプロヴィゼーション)‥‥ 無意識のうちに精神の内部から突然生まれるもの。
構成(コンポジション・作曲)‥‥ 最初の構想を時間をかけて幾度も練り仕上げた作品。

カンディンスキーの作品Ⅰ 第一次世界大戦勃発まで

《ミュンヘンの聖ウルスラ教会》1908年
ミュンヘンの聖ウルスラ教会1908年_convert_20100324221156

フォーヴィスムの影響を受けて、色彩豊かな作品。

《印象Ⅲ(コンサート)》1911年
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無調音階によって作曲されたシェーンベルクのコンサートを聴いて感動したカンディンスキーは、その時の“印象”を作品化しました。

・画面には聞き入る聴衆の頭部らしきものや、グランドピアノが想起される黒い三角形が描かれています。
・対角線上に動きを感じさせる構図がとられています。
・黄色い面と黒の対比が目を引きます。聴衆を包み込む音が黄色い色で表現されているようです。
・朱色が効果的に配され青色も加わって心地よい調和を作り出されています。

《即興19》1911年 120×141.5cm
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一日で描かれた作品。カンディンスキーは、「即興」は内的衝動の無意識の表現と述べています。画面全体の溶け合う色彩の上に大胆に描かれている黒い線が、右の青い聖域と左の俗世とをはっきりと表現しています。

《コンポジションⅦのための習作》1913年 水彩 49.6×64.8cm
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内部から湧き出てくるイメージ「内的必然性」を形にする試みとして、水彩やペンによる素描を多く描きました。

・「最初の抽象画」と言われた作品です。何かを特定する具体的な形が全く描かれていない「非対象絵画」です。
・赤や黄色などの配色が美しく、水彩画の透明感が生かされ、繊細な線と相まって不思議な世界が
 作り出されています。
・浮遊する動きのある、生き生きとした作品です。

《コンポジションⅦ》1913年 
コンポジションⅦ_convert_20100324221653

2m×3mの大作。多くのモチーフが描き込まれ、色彩と形が一体となって響き合い交響楽的な世界が創り出されています。
・形の多様さ、色数の多さ、幾種もの線、それぞれがせめぎ合う様に有機的なつながりで表現されています。
・「最後の審判」「ノアの洪水」など終末と復活がテーマとなっています。
・対角線、逆三角形の構図によって描かれており、上方に拡がっていく動きを感じさせます。
・ダイナミックな動きや混沌とした表現が、鑑賞者が画中に引き込まれるような迫力を生み出しています。


《黒い線》1913年 129.5×131cm
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一見すると、花がモチーフとなって描かれているようですが、カンディンスキーは、初期の「完全な抽象的作品」の一つと述べています。
・彩色された色彩の濃淡が微妙な美しさを感じさせています。
・走り書きのような黒い線は、画家の無意識の世界を表わしているようであり、興味深い線となっています。
・この作品の見どころは、透明感のある色彩と黒い線とが作り出す対立と調和です。
・色と線との距離感が、画面にドラマティックな空間(深さ)を作り出しています。

《即興=峡谷》1914年
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この作品は、第一世界大戦勃発直前に描かれました。画面中央下にバイエルン地方の衣装を着た二人、オールが突き出た2艘のボートなど、モチーフ(何が描かれているか)がかろうじて分かりますが、それよりも豊かな色彩の氾濫の渦の中に引き込まれるようなダイナミックな作品です。

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「カンディンスキー」Ⅱ

カンディンスキーは、第一次大戦勃発とともにミュンヘンからロシアへと戻ります。そしてロシア革命後、絵画制作に専念できない数年を過ごします。当時若い世代による、ロシアアヴァンギャルト運動が起こっていて、具体的な対象を徹底的に排除しようという方向に向かっている中、まだ対象を完全に捨てきれないひそかな抵抗が彼の中にはありました。そんなロシア時代を送った後、1922年に美術工芸学校バウハウスで教鞭をとるためドイツに移住します。そのバウハウス時代の名作が次の作品です。熱いエネルギーにあふれた絵画(抒情的抽象)から幾何学的抽象に転じ理論的な抽象主義を確立しました。

《コンポジションⅧ》1923年
コンポジションⅧ1923年_convert_20100404194005
点、線、面、○△□の幾何学図形だけで構成され、それらの組み合わせによってリズムが作り出されています。
カンディンスキーは宇宙という概念に結びつく「円」を重要視しました。静と動、収縮と拡散といった「対立を統合する円」や円の無限に変化する性質が表現されています。

10年前に描かれた《コンポジションⅦ》
コンポジションⅦ_convert_20100324221653

10年の間に抽象をより深めて行った変遷を感じ取ることが出来ます。


《セブラルサークル》1926年
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カンディンスキーにとって円は重要なモティーフでした。色とりどりの円が、画面に拡がり、深さ、リズム、浮遊感
を感じさせています。円の大きさや位置関係、構図、配色が周到に計算され幾度も考察が加えられたことが窺われます。多くの造形言語を語るこの作品は、カンディンスキーが追及してきた“抽象絵画”の一つ完成を示していると思われます。幾何学的抽象に転じたとはいえ、どこか抒情性を感じさせる作品です。


《コンポジションⅩ》1939年

「コンポジション」シリーズの最後を飾る作品であす。追及してきた様々な抽象的な表現の総決算といえる作品

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巧みに配された色彩が、輝くような視覚的効果を高め、切り紙絵を思わせるくっきりした形は明快さを感じさせます。
四方に拡がる動きが、計算された構図で生み出されています。
形の重なりが、様々に入り組んだ空間を作り出し、画面を面白く快活にしています。散りばめられた小さな四角形がさらに華やいだ画面を演出しています。

《空の青》1940年
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1933年からパリに住み始めて、カンディンスキーは幾何学的な表現を捨て去り「生物を連想させる抽象」を描くようになりました。想像力によって生み出された奇妙な形をした生物らしきものが空中を浮遊しています。鑑賞者がカンディンスキーの作品から一番多く受け取る感じは、この浮遊感です。1910年代の作品に比べ、一つ一つの形態が的確に描かれており、カンディンスキーの関心が個々の形に向けらたことが窺えます。背景は、自らが「天上の色」と語る青色が使われ、空間性を高めています。「絵画から対象を無くすこと」で始められたカンディンスキーの抽象絵画の追及は、画面に生物を連想させる有機的な形態を描くことで完結を見せています。


次回は幾何学的抽象の画家、モンドリアンを紹介します。

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冷たい抽象「モンドリアン」

幾何学的抽象・冷たい抽象

ピート・モンドリアン (1872~1944年)オランダ 抽象絵画・新造形主義

1872年オランダに生まれ、アムステルダムの美術学校で学んだモンドリアンは、1911年パリにアトリエを構えました。当時の前衛芸術キュビスムに触れ、具象的な表現から完全な抽象に移っていきました。1917年オランダの芸術運動に参加して自ら唱えた「新造形主義」の原則に従い、三原色と無彩色、水平線、垂直線による幾何学的抽象絵画を創始しました。

【幾何学的抽象の極限”と言われるモンドリアンの作品の特徴】

   画面から非本質的な要素を取り去り、ギリギリまで切り詰めた表現
 
赤、青、黄(色の三原色)と白、黒、灰色の無彩色だけを使用した表現。
「水平線」と「垂直線」によって作られる格子構造(グリッド)で描かれていて、画面は全て非対象で中心が無く、隅々まで同じ張りを持つ均一な空間で描かれています。作品の色と線が画面の外の空間とつながっています。

【何が表現されているのか】

目の前の世界を単純化していくと、すべては普遍的なものであって、水平線と垂直線で表現される。モンドリアンの世界認識

「宇宙全体を支配する構成原理」と「普遍的で最も基本的な世界の原理」を表現しています。
 
【水平線と垂直線の構図に至るまでの抽象化のプロセス】 

《赤い木》1908年
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   赤と青を対比させ、現実の樹木の色から離れてはいますが、幹や枝の描写は写実的に
   表現されています。
 
《灰色の木》1912年 
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   細い枝や葉が省略され、樹木を形作る太い枝と幹だけが描かれています。
     単純化と平面化が進んでいることが分かります。
 
 
《花咲くリンゴの木》1912年 さらに簡略化が進み、樹木は垂直線と水平線と円弧で表現されるようになりました。
花咲くリンゴの木1912年_convert_20100406011211

 
 
 
《黒と白のコンポジション》1915年
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水平線と垂直線だけで構成され、他の要素が排除された抽象絵画に到達する。


《赤、黄、青のコンポジション》1930年 45cm×45cm    
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「コンポジション」のシリーズの中で最も知られた作品。極端に画面上の要素を切り詰め、説明的なものが一切排除されています。画面を支配するのはバランス感です。赤、青、黄の配色関係、白いスペースのとり方など、これ以上の組み合わせが無い程の決定的な表現となっています。左の短い水平線は他の線に比べ太く引かれており、赤色の色彩力に対抗しています。中心がない非対称の画面で、色彩と線が作品の外の空間に拡がり結びつく新しい絵画空間が作り出されています。

《黄・赤・青と黒のコンポジション》1921年
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《コンポジション》1922年
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《ニューヨーク・シティⅡ》1942年~44年 119cm×115cm
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1940年、戦火を逃れてニューヨークで暮らすモンドリアンに、大都会は大きな刺激を与えました。新しい環境やみなぎる都市の活力は、新しい抽象造形を追求するモンドリアンを新しい表現に向かわせました。この作品では、タテ・ヨコの線にテープが使われており、アメリカでの新しい試みとなっています。赤、青、黄の三色の線が織り込まれたように引かれ、平面に浅い立体感が作り出されて鑑賞者に新しい視覚体験を提供しています。

《ブロードウェイ・ブギウギ》1942年~43年 127cm×127cm
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モンドリアン晩年の代表作。摩天楼が立ち並ぶマンハッタンの都市景観や、幾何学的な碁盤眼状の区画に触発されて制作されました。ブギウギは当時流行したジャズ音楽でです。画面を分割する黒い線が消え、赤、青、黄がリズミカルに並び線を作り出しています。色の重なりによって生み出された前後感が動感に結び付き、快活さと楽しさが強く感じられる作品になっています。モンドリアンが創出した幾何学的抽象表現は、デザインの世界にも大きな影響を及ぼしました。

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