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アート/ART 

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セザンヌⅠ「印象派への不満」

ポール・セザンヌ(1839~1906)

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「私は、一個のリンゴで、パリを仰天させてやりたいのだ」

「自然を円筒形と球形と円錐形に扱いなさい」
                             セザンヌの言葉

ルネサンスからの遠近法・陰影法をなくし、独自の画法によって、誰よりも早く新しい空間を創り上げた画家。現実の空間に存在する物(風景)を幾何学のフォルムとして捉え、それを平面上(キャンバス)で再構築させました。この方法は、キュビズムのピカソたちにも、多大な影響を与えました。また「画家達の画家」と言われ、セザンヌの作品を進んで購入したのは画家達(ゴーギャン・モネ・ドガ・マティス・シニャック・ピサロ・ピカソ・ブラック・ヘンリー・ムーア)でした。そして、大切に長く手元に置かれました。

「セザンヌこそ、私のたった一人の師だった!彼は我々すべての父親のようなものだった」  ピカソの言葉

【初期の作風】

1862年パリに落ち着き、1863年からルーブル美術館で模写を始めます。主題として、静物・肖像・風景を描く一方で、「死体解剖」「誘拐」「酒宴」など激しい暴力的な光景や、死をテーマにした作品など色んなジャンルに取り組みました。

《ドミニク叔父さん》1866年
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1860年(21歳)から、母方の叔父ドミニクの肖像画を9枚描いていて、その中の代表作。
陰影法が見られます。絵具をパレットナイフで力強く塗り重ねています。
強い筆触の塗り重ねは、初期の作品に見られる描法で、エネルギッシュな存在感があります。

《ドミニク叔父さん・部分》1966年
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《タンホイザー序曲》1869年
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音楽が好きだったセザンヌは、友人たちと「愉快な奴ら」というバンドを組み、彼自身はコルネットを吹いていました。
ワグナーの信奉者だったセザンヌは、この作品に「タンホイザー序曲」と名付けました。ピアノを弾いているのは妹のマリーでしょうか。
多くの直角のモチーフ(手前の肘掛椅子、母親らしき女性が座るソファ、ピアノ、椅子そしてピアニストの腕)を、画面に対して平行か直角に配置されています。その固い構図を、落ち着いた色調が和らげています。ピアノ、ソファの木枠、カーペットの縞柄に使われた黒色が、白いドレスを際立たたせています。

【ピサロとの出会い(印象派時代)】

戸外の画家となったセザンヌ
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ピサロとの出会いは、1861年セザンヌ21歳の頃パリのアカデミーで。親交を続ける中、1870年代に入ると、若い画家達が新しい絵画を求めて動き始めていました。ポントワーズで、ピサロとキャンバスを並べ、印象主義の技法を学んだセザンヌの絵は、それまでの重厚で暗い色調から、明るく軽やかな作風へと変わっていきました。

《ジャ・ド・ブファン》1876年
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「ジャ・ド・ブファン」は銀行家だった父が購入した別荘。
1860年代の作品に見られた厚く塗り重ねられた筆触は無く、明るく軽やかな筆遣いが感じられます。
川面に反射する輝く外光はまぶしく、さわやかな空気感も伝わってきます。
モネが描いたセーヌの川面を思い起こさせる作品です。

モネ《アルジャントゥイユのヨットレース》1872年
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【印象派への不満】

《マンシーの橋》1879年 印象派時代に終わりを告げる作品
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「ジャ・ド・ブファン」に比べて、この水面には光の揺らめきはありません。水面に映り込む対象も、きちっとした形態として捉えています。

1880年前後に差し掛かると、印象派の「外光の中の自然、感覚的な現象だけを描く」ことに満足できなくなっていきます。印象派が物の形を無くしていったことに不満を感じて行ったのです。自然の存在感を描くには、表情によってではなく、形態をしっかり捉え、しっかりした構図で描かなければならないと感じたのです。

印象派の明るさを保ちながら、しっかりとした構成で、

「私は印象主義から、何か美術館の作品のように堅固で 永続的なものを作りたい」と願いました。

この古典的画家のような考え方のセザンヌが、なぜ「近代美術の父」となったのでしょう‥

セザンヌは、三次元の立体物を、その奥行きや量感を無くさないまま、二次元の平面(キャンバス)に再現するのに、遠近法(透視図法)・陰影法に頼らなかったのです。
ここが古典的画法とは異なるポイントです。

次回は、「セザンヌの新しい表現方法について」です。

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セザンヌⅡ「新しい表現方法」

「印象派の色彩世界は、あまりにも感覚的すぎる。そしてさらにその色彩によって形態が失われてしまった。
しっかりした構図で描かれていないので造形的に弱い。自然の存在感を描くには、表情によってではなく、形態をしっかり捉え、しっかりした構図で描かなければならない」」

セザンヌは、印象派のモネ達が解体した形態(フォルム)を画面に復活させるために、遠近法や明暗法を使わず、どのような表現方法で臨んだのでしょう。

【セザンヌの新しい表現方法】


面取り モチーフを面の集合として捉えて描く
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  図1-2

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面取りは対象を構造的に捉えることができます。立体物の立体感や実在感が表現しやすいのです。

同一人物の肖像画 ⇒ ルノワールとセザンヌの描き方の違いは?

ルノワール《ショケの肖像》1876年 光が反射した表面を描く(印象派)

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セザンヌ《《座るショケ》1877年 「面」の集まりとして描く。

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視点を移動して描く

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講座スライドより

多視点による表現(構築された画面)
一つのモチーフをいくつもの視点から見た形を同一画面に描くことにより、奥行きや立体感を表現する事が出来ます。


《籠のある静物》1890~05年
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視点を移動して得られた画像を、画面上で構成しています。
一点から見て描く、ルネサンス以降の絵画をセザンヌは終わらせました。

《チェリーのある静物》1887年
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同じテーブルの上にある2枚の皿。チェリーの方は、ほぼ真上からの視点で描かれています。
サクランボが皿から滑り落ちそう。しかし絵画的に面白い表現になっています。

リンゴの丸みや遠近感を表わす技法

暖色(赤や黄は近づいて見える)と寒色(青や緑は遠ざかる)の視覚効果の対比によって形態に量感を与えました。光や影でモチーフを形作らず、色彩でモチーフを単純化させました。

エルスワス・ケリー《レッド・イエロー・ブルー》1963年
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《コンポートのある静物》1879~80年 
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ゴーギャンが大切にして、長く手元に置いていた作品です。

モーリス・ドニ《セザンヌ礼賛》1900年~01年
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ゴーギャン所蔵のセザンヌ作「コンポートのある静物」を囲んで、画家たちが議論・賞賛している様子を描きました。ドニがセザンヌ宛の手紙の中で「私達は絵画に関するすべての知識をあなたから学びました。」と書いているように、セザンヌは「画家たちの画家」として後に続く画家たちに影響を与えました。


「どちらが美味しそう?」

カラヴァッジョ《果物かご》1596年頃
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リンゴの種類が分かりそうなリアルな表現

《セザンヌのリンゴ》
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造形性が優先されたセザンヌのリンゴ
リアルさを描くことより、普遍的な造形形態を追及。モダンアートは、絵画から「意味」や「寓話性」を排除して、造形性を重視していきました。


以上のような絵画的要素の単純化や構成法は、形態の抽象化をもたらし、次の世代の画家達には、新しい絵画構成としての基盤となりました。近代美術の父といわれる所以なのです。    


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セザンヌⅢ「自然を円筒形と球体と円錐体で捉えなさい」

【自然を円筒形と球体と円錐体で捉えなさい】


「自然の存在感を描くには、表情によってではなく、形態をしっかり捉え、しっかりした構図で描かなければならない。自然には幾何学的な組み合わせがある。対象を幾何形体に分解し、自然を知能で見る」

セザンヌは自然の変化を描きたかったわけではなく、自然の中に【造形】を見つけ出そうとしました。自然は奥が深い。そして、自然の中にすでに存在している形態を見つけ出し単純化して構成して行く。この単純化は形態の抽象化への方向付けを生み出し、「自然を円筒形と球体と円錐体で捉えなさい」という言葉は、ピカソやブラックなどのキュビズムを生むきっかけとなりました。

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ピカソ《オルタの貯水池》1909年
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ブラック《レスタックの家》1908年
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【サント=ヴィクトワール山】

セザンヌ《サント=ヴィクトワール山》 1904~06年
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「自然は、その表面に現われているよりもずっと奥深い」

セザンヌは、故郷のサント=ヴィクトワール山を、30年間にわたり何度も繰り返し描いています。自然から受けた生き生きとした感動をいかに画面に定着させるかが、生涯のテーマでした。

自然を平面的な広がりより、奥行きのある存在として捉え、自然の奥にすでにある形態を構成し描きました。
使われているのは、緑色と茶色と青色だけ。その色彩のバランスと、垂直の四角い色面を連続させる筆触(色彩のモザイクのような)が、軽快なリズムとどっしりとした存在感をもたらしています。
また、セザンヌの言う「空気を感じさせる青色」を、空と山に使うことで三次元の奥行き(寒色は退く)を強調しました(空気遠近法)。


【デフォルメ】

デフォルメとは?

・対象物を変形し歪曲(ゆがめる)すること。   ・対象の特徴を誇張、強調する表現方法。

古典絵画⇒自然を模倣し忠実に再現

近代美術⇒主観や感情を強調して描きたい時や、画面の構成上必要な場合は、
     変形し歪めて表現するようになり、それが個性的表現となりました。  


《赤いチョッキの少年》1895年
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頬杖は、ルネサンス以来用いられてきた伝統的なメランコリーを表現するポーズ。しかしセザンヌは、そのポーズの絵画的な構成上の面白さに関心があり、右腕は、構図のバランスをとるために極端に長くのばされました。エル・グレコの影響が感じられます。

エルグレコ 黙示録第6章より《第五の封印》1608年
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エル・グレコ(1541-1614)は、スペインの宮廷画家です。
人体の比率を無視して、異様に引き伸ばされて(デフォルメ)主題を強調しています。

マニエリスム《均斉美を壊す16c絵画様式》の画家です。



【塗り残し?】

《温室のセザンヌ夫人》1891年
温室のセザンヌ夫人1891年

セザンヌは筆が遅い画家でした。モティーフを解釈することに時間をかけ、熟慮を重ねながら筆を動かしていく。もうこれ以上色を塗る必要がないと感じれば、キャンバス地が残っていても筆を止めてしまいました。
また、塗り残し(キャンバス地)があることによって、絵画とは平面であることが認識できます。


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セザンヌⅣ「集大成」

セザンヌ絵画の集大成「大水浴図」

《大水浴図》1898~1895年 208×249㎝
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木々と小川が作り出す大きな三角形の安定した構図。その三角形に沿うように14人の裸婦が配置されています。裸婦の顔、肉付き、官能美は表現されていません。セザンヌにとって、モティーフが何かより、どんな形をしているのかが重要でした。裸婦は造形的な追及のためデフォルメされ、構図のバランスを取っています。絵画を構成する一つのパーツとしての裸婦は、テーブルの上に並べられたリンゴと何ら違いはありませんでした。

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リンゴやオレンジがどんな種類で新鮮か否かなどの意味合いは排除され、ただ普遍的な造形性を追求するために描かれています。

ブーシェ《水浴のディアナ》1742年  官能美溢れる水浴図
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フランソワ・ブーシェ(1703~1750)フランス・ロココ時代を代表する画家

ディアナは18世紀のフランス絵画によく描かれた女神です。狩猟を終えたディアナが水浴をして身づくろいをしているところです。女神の名のもとに官能的に描かれています。セザンヌの形としての裸婦像と違い、神話的要素のみずみずしい裸婦として描かれています。セザンヌ達モダンアートの画家達は、このような神話性から離れて行きました。


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