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アート/ART 

ART PROGRAM K・T 

色々な形(フォルム)Ⅰ

「なぜ絵画は見たとおりにではなく、考えたとおりに描いてはいけないのか?」

19世紀後半から20世紀初頭のモダンアートの芸術家たちは、写実的な自然主義から離れ、対象の色を自由に変え、形を大胆に変形し単純化することで、自然や現実から自立した絵画独自の世界を追求し始めました。キュビスムが、現実から形を解放し、以後、多様なアートの出現とともに様々なフォルム(形体)が創り出されました。

パブロ・ピカソ《ギター》1913年 パピエ・コレ
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セザンヌの影響を受けたキュビスムのピカソとブラック。この頃になると、形態の分析、解体、再構成が進み、何が描かれているのか判別がつきにくくなってきました。そこで再び現実との接点を得る方法として、印刷物などを画面に張り付ける「パピエ・コレ」というコラージュ技法が取り入れられ、平面的ではありますが、層化した空間が作り出されました。抑えられた色彩表現から色彩が復活して洗練された表現になっていきました。

アンリ・マティス《かたつむり》1953年
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マティスは、自然や物、人体、空間をいかに絵画的に面白く表現するかを追求しました。マティスは対象の色を変え、形を大胆に単純化して造形性を強め、自然に従属していた絵画の世界を自然から自立させました。

晩年、病のため車椅子の生活を余儀なくされたマティスは、以前構図を考えるのに使った「切り紙絵」によって、作品の制作を続けました。輪郭線を引いてそこに色を置くのではなく、いきなり色彩で描いていくことによって、色彩と線の強さ(形)が両立している作品を作りだしました。色彩と線、どちらも並び立つ表現を追求してきたマティスにとって、切り紙絵は、切り抜くことで色彩と線が同時に決まり、両方を満足させる表現方法でした。

「かたつむり」は、「かたつむり」と書かれているので「かたつむり」。確かに切り紙が渦巻状の動きをを出しています。タイトルがたとえ「メリーゴーランド」であったにせよ、マティスが描きたかった「座り心地の良い肘掛椅子のような芸術」に違いはないのです。


ブランクーシ《空間の鳥》1927年
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ブランクーシ(1876~1957年・ルーマニア)は、形態を極端に単純化した作品を制作し、抽象彫刻の先駆けとなりました。
「空間の鳥」は、余分なものをそぎ落として空を飛ぶ鳥のイメージをシンプルな形に切り詰めました。それは、鳥の形でもあり、大空に羽ばたく翼の軌跡のようにも感じます。


ブランクーシ《眠るミューズ》1910年
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卵形に単純化されたミューズです。アフリカ彫刻を思わせる表情だけが手掛かりの眠るミューズです。そぎ落とされたというよりは、卵の形の中に、ミューズのすべてが閉じ込められているようです。


カシミール・マレーヴィチ《黒の正方形》1913年
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カシミール・マレーヴィチ(1878~1935年)ロシア  シュプレマティズム(絶対主義・非対象絵画)の画家

対象を必要としない絵画(非対象絵画)を、誰よりも早く描きました。行きつくところまで行ってしまった絵画です。


エルスワース・ケリー《紫の曲線》1982年
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エルスワース・ケリー《黄色い曲線》
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自然・建築物など、外部からのイメージ

イメージを形にした作品。色の形を表現しています。

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街で見かけた橋の曲線や建物の直線、山の稜線など、日常の生活の中で自分が目にして触発された線や形をそのまま作品に使っています。ケリーの作品は、自分の内面から出てきた形や色ではなく、自然や建物など外部から得た形からイメージされたものです。内面的なものを表わさない色や形。


エルスワース・ケリー《赤・黄・青》1966年
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【ハード・エッジ】
作者の内面的なものが、何も表現されていない作品。筆触を消し去り、いかなる感情も観念も表現しない色見本のような色彩表現です。






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色々な形(フォルム)Ⅱ

【ミニマル・アート】

ミニマル・アートが起きるまで


難解な芸術表現になり過ぎた抽象表現主義の退潮とともに現れてきた、ネオ・ダダ(ジャスパージョーンズ)やポップアート(アンディ・ウォーホル)は、大衆文化から誰でもよく知っている物やイメージをモティーフに描いているため、その結果として、何でもアートになりうる状況と可能性を作り出しました。その安易とも言える表現方法に反発して、本来のモダンアートが追求してきた表現を更に推し進めようとする一部の芸術家たちが現れました。

モダンアートは、平面である絵画からイリュージョン(遠近法・明暗法)や物語などの文学的要素を排除して、絵画の「自己純粋」を追求してきました。それを更に追求して、形態や色彩を最小限に切り詰めたアート、最小限アート 何も表現されていないアートが登場してきました。【ミニマル・アート】です。作品から可能な限り手技の痕跡を取り去り、均質で単純な形態を反復する。作品は、作者の主観や感情、見る者へのメッセージなどは何も表現されておらず、作品から意味を消し去っています。反復性、対象性、連続性が特徴のアートです。

ミニマルアートの先駆けとなったのが、ジャスパー・ジョーンズの「旗」を見てインスピレーションを得たフランク・ステラでした。ステラは、ジョーンズの「旗」への意味付けに興味を示したのではなく、旗のストライプの繰り返しに注目したのです。ストライプだけを取り出して描き始められたのが、一連のブラック・ペインティングでした。

フランク・ステラ《旗を高く掲げよ》1959年
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ジャスパー・ジョーンズ《旗》1954~55年
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ドナルド・ジャッド《無題》
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ドナルド・ジャッド《無題》1967年
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■ドナルド・ジャッド (1928~1994年) アメリカ 
 
 ミニマルアートを代表する作家の一人。

絵画のイリュージョン(奥行き感)を否定して立体作品を制作しました。箱を壁に等間隔で積み上げた(スタック)作品は、自身が主張する絵画でもない(立体だから)、彫刻でもない(壁にかかっているから)「特殊な物体」を表現したものです。


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ジャッドは、作品を提示するだけではなく、作品が設置されることによって生じる空間の変化を鑑賞者が体験することをは意図しました。見ることより、“その場を体験する作品”を制作しました。


ジョン・マックラケン《無題》1967~1970
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■ジョン・マックラケン(1934年~  )アメリカ

 厚板をムラなく樹脂塗装し、壁に立て掛けただけの作品です。色彩そのものを物体化しました。



ロバート・モリス《無題》1965年
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ロダン《カレーの市民》1888年
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■ロバート・モリス(1931年~  )アメリカ

主観的な表現をことごとく切りつめたかのように処理された表面は、工業製品を思わせる無表情さです。


ロダン作「カレーの市民」は、近くに寄ったり離れたりして、表情・着衣のひだの深さ・筋肉などを鑑賞します。彫刻が語りかける歴史や感情も鑑賞の対象となります。従来の彫刻の鑑賞の方法です。
しかし、そういった見る者へのメッセージや意味が何も無いミニマル・アートでは、一目で作品全体(4個の立方体)を理解することが出来ます。作品から可能な限り手技の痕跡を消し去り、単純な形態を連続させてイメージを希薄化させています。作品が置かれた空間も作品です。





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色々な形(フォルム)Ⅲ

コンセプト(観念)と結びついた形・考えが形に変わる~1

アーティストの観念や思考が作品を成り立たせ、観念の表明としての「形」が作られる。

【インストラクション・アート】のフォルム
観客の手によってその形を変えていくアート

フェリックス・ゴンザレス=トレス《無題・大衆の意見》1991年

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フェリックス・ゴンザレス=トレス(1957~96年)キューバ  

美術館の隅に積まれたキャンディの山です。

アーティストの指示(キャンディを持ち帰ってもいい)によって、キャンディの山の形がどんどん変わって行きます。観客が作品に関わることによって作品が成立しているアートです。
キャンディはキャンディ・ポットの中や、お菓子売り場にあるものという固定観念がありますが、美術館に置かれた瞬間にアート作品となり、しかもアーティストのインストラクションにより、その形を変えて行く行為に参加することが出来るのです。



【ランド・アート】のフォルム

ロバート・スミッソン《スパイラル・ジェッティ(螺旋形の突起)》1970年               
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ロバート・スミッソン(1938~1973)は、グレートソルト湖に石と土を積み上げて、幅約5m・全長457mの螺旋状の堤防を制作しました。大地への痕跡というには、非常に大きな作品です。


ランド・アートのコンセプトは、「オフ・ミュージアム」「オフ・ギャラリー」です。美術館やギャラリーから抜け出して、石・木・砂・土などの自然の素材を使い、湖や砂漠や平原などの特定の大地に作品を制作するアートです。時間の経過と共に破壊・崩壊が起き、形が徐々に崩れて行っても作品であり続けるのです。
しかし、私達鑑賞者はランドアートの現場に赴く事はなかなか困難なことであり、結局は写真などが展示された美術館で鑑賞するという矛盾も抱えています。


【もの派】のフォルム

関根伸夫《位相・大地》1968年
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円柱の穴を掘り、掘り出した土を穴と同じ大きさの円柱に固め、穴の横に並べただけの作品。何も意味が無い、あるがままの土をアートに変えています。

もの派のコンセプトは、自然の物(例えば土や木や石)や、素材として扱われるもの(紙・金属・ガラスなど)を造形的に加工せず、本来の物としての存在を問い直すことです。つまり、人間によって意味づけられた(石垣としての石、床としての木など)物から、意味や目的をはずして、物と物との関係・物と人間との関係・物と社会との関係について問い直し、「新しい物のあり方」を提示して作品としました。(川原に転がっていた石を画廊に持ち込むことによって、新しいもののあり方を問い直す)


【梱包芸術】のフォルム

クリスト《ポン・ヌフ》1985年
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クリスト(1935~ )ブルガリア

自然や建造物を布で覆ってしまうインスタレーションです。公園の木々(スイス)・海岸(オーストラリア)・ドイツ国会議事堂・橋(パリ)など、一つのプロジェクトに長い年月を費やして実行し、短期間の展示の後撤収が行われます。ザ・ゲーツ(門・セントラルパーク)というプロジェクトでは、交渉などに約25年を費やしたプロジェクトもあります。

クリスト自身が「覆って美しいものしか、覆わない」と言っているように、布で覆い尽くされたポン・ヌフは美しく、覆われることによって新たに別の形が出現し、私達に物の在り様を問いかけてきます。布は2週間で取り外されました。

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色々な形(フォルム)Ⅳ

コンセプト(観念)と結びついた形・考えが形に変わる~2

アーティストの観念や思考が作品を成り立たせ、観念の表明としての「形」が作られる。

【インターヴェンショ二ズム(介入主義)】のフォルム

「インターヴェンショ二ズム(介入主義)」と呼ばれる手法で、すでにある物の形や偶然見つけたものに手を加えて作品にしていく。かってどこにも存在しなかった作品は、観客に新しい感覚を抱かせます。

ガブリエル・オロスコ《Pinched Ball》1983年
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ガブリエル・オロスコ(1962年~  メキシコ)

既存のサッカーボールを潰して形状を変え、新たに出来たくぼみに液体を流し込むことによって又新たな形を出現させて作品化しています。

ガブリエル・オロスコ《変更されたシトロエンDS》 1993年
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フランスの大衆車シトロエンDS(車)を切断中抜きし、再結合・再構築して前後各一人乗りに改造した作品です。よく知られたシトロエンに手を加えることによって、新たな形が出現します。



カタリ―ナ・フリッチュ《鼠の王様》1993年
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カタリ―ナ・フリッチュ(1956~ 
常識をはるかに超えた巨大な像(形)は、デペイズマン※によって見る者に大きな驚きと不思議な感覚を与え、各人がそれまで抱いていた芸術の見方や価値観をグラつかせます。

※デペイズマンとは、最初に“驚き”を与えることによって、鑑賞者のそれまでの物の見方や感じ方、常識、固定観念(思い込み)を白紙にさせ、新しい思考回路や新たな感覚を鑑賞者の内に新しく呼び起こさせようとするシュルレアリスムの手法


ロン・ミュエック《ボーイ》1999
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ロン・ミュエック(1958~ オーストラリア)

ファイバーグラス、樹脂、シリコンでできた高さ5mのかがんだ少年の立体作品。ナニコレ、ナンデ、こんな巨大な少年が美術館にあるのか‥私達は、ヒューマンサイズをはるかに超えた大きさ、しかもリアルな再現に驚かされます。



【漆器】のフォルム

「用」から生み出された無駄のない洗練された形と、漆の深い色合いが美しい。

《琉球片口銚子》18世紀
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角 偉三郎(かど いさぶろう)《朱帶曲輪六段重》
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文田昭仁デザイン、伝統工芸士・躑躅森健製作《nest》一輪挿し
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川連漆器文田明仁nest_convert_20101027130352

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色々な形(フォルム)Ⅴ

「人のカタチ」をアートにする

フランシス・ベーコン《Seated Figure》1977年
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フランシス・ベーコン(1909~1992 ダブリン(アイルランド)出身)
抽象絵画が全盛の時代、その流れとは関係なく、具象絵画を描き続けた画家。

椅子に座るデフォルメされ歪められた肉体。幾何学的で舞台のような空間の中で、じっとこちらを見つめています。何か薄気味悪く嫌な感じが漂い、こちら側の神経を逆撫でするような視線です。足からは何か動物的なものが生えていて、増殖していくような不安感も覚えます。ベーコンは「自分が惹かれるイメージを再現しているだけ」と述べています。再現された彼のイメージは、私達の視覚よりも神経に強く訴えかけてきます。


ベーコン《「教皇インノケンティウス10世の肖像」(ベラスケス作)を基にした習作》1953年
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ベラスケスが描いた教皇の肖像画を元に、ベーコンは50点程の習作を描いています。
ベーコンは、幼い時から強権的な父親の虐待を受けながら成長したこともあり、威厳と権力の象徴である教皇の肖像画に興味を示したという解釈もあります。身動きが取れなくなり恐ろしい形相で何かを叫ぶ男。不安や薄気味悪さを増幅させるように描かれた何本もの刷毛の痕。私達鑑賞者は強烈なインパクトに、目が離すことが出来ないのです。

ベラスケス《教皇インノケンティウス10世の肖像》1650年
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ベラスケスが描いた肖像画の中でも最高傑作の一つに挙げられます。教皇インノケンティウス10世は、当時のキリスト教圏の絶対的な権力者でした。


ロバート・メイプルソープ
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ロバート・メイプルソープ(1946~89 アメリカの写真家)

花、ポートレート、ヌード、セックスの四つをメインテーマとして作品を制作しました。彫刻的な筋肉の美しさや人体のフォルムの美しさを十全に引き出すポーズと完全な美を追求した構図は、冷徹な視線から生まれた独自の美意識によるものだと思います。
人間の筋肉というイメージから離れ、美しいフォルムを表現したブロンズの彫刻のようです。

ロバート・メイプルソープ
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花というイメージより、一つの美しいフォルムとして捉えた写真です。



《ワンポインティング》1947年 高さ179cm
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ジャコメッティ(1901~66)スイス出身の彫刻家 絵画や版画も多く残しています。 
1922年にパリに出て、ブールデルのもとで彫刻を学びます。シュルレアリスムの影響が強い作品を制作しますが、第二次大戦後は余分なものをそぎ落とした独自の作品を制作しました。

西洋の伝統的な彫刻、つまりボリューム感を基本とする彫刻とは正反対の、それまでの彫刻の歴史には見られないような細く長く引き伸ばした人物像が特徴の作品を制作しました。


「対象をとらえようとすればするほど彫刻はどんどん小さくなっていった。細くなければ現実に似ない」(ジャコメッティの言葉)


ジャコメッティ《ディエゴの胸像》1952年
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弟のディエゴをモデルにした作品を何点も残しています。繊細でもあり力強くもある指の痕が残されていています。ジャコメッティの作品は、指跡の一つ一つの集積によって成り立っています。

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