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アート/ART 

ART PROGRAM K・T 

熱い抽象「カンディンスキー」‥Ⅰ

ワシリー・カンディンスキー(1866~1944年) ロシア
     
【抒情的抽象画・熱い抽象】

抽象絵画の創始者として知られています。モスクワ大学で法律を学び大学の講師をしていましたが、30歳の時に印象派の画家モネの作品に出会い、その影響で画家を志すようになりミュンヘンに移住しました。ミュンヘン時代に体験したある出来事が、具体的な対象を描かない絵画の成立を確信させ模索を始めました。そして、造形的要素である色と形だけで表現され現実を再現しない絵画、抽象絵画(非対象絵画)が生み出されました。

画家を志す契機となったモネ(印象派)の作品《積み藁》1891年 

1891年_convert_20100324180808

1895年にモスクワで開かれた印象派展でモネの《積み藁》シリーズの1点を見て、何が描いてあるのか理解できなかったにも拘わらず、色彩それ自体の表現力に感動し、無対象絵画の可能性を確信しました。

一つのある体験が抽象絵画を描くことに向かわせた

「自分の絵を駄目にしているのは対象である」

外出から帰ったカンディンスキーは、自分のアトリエに、これまで見たことも無いような「神秘的な輝きに満ちた美しい作品」が置いてあるのを見て驚きました。誰の作品だろうと近づいてよく見ると、それは彼自身が描いた馬の絵で、横倒しになっていたためすぐ分からず、見たこともない絵と思いこんでしまったのです。いったんそうと分かってしまうと、先ほど感じた美しい神秘的な輝きは消えてしまい、それから後はいくら絵を横倒しにしても、逆さにしても、馬の形が眼について、純粋な色の美しさを感じることはできませんでした。この体験から、カンディンスキーは絵画の真の美しさを味わうためには、馬の形が邪魔であるということを学びました。

「対象は、絵画の真の美しさを観る者に伝えるのに邪魔になり、その存在は絵画の美しさにとって有害である」

抽象絵画に至るまでのカンディンスキーの課題

・画面から対象を無くしても、「秩序ある絵画世界」を作り出せるのか
・無くなった対象の代わりに何を描くのか

抽象絵画で何を描こうとしたのか

・色や形のような眼に見えるものを通して、眼に見えない画家の内面「精神的なもの」を、
 具体的な対象を描かずに表現する。
内面から沸き出てくるイメージ「内的必然性」によって、点、線、色面の純粋な造形
 要素だけで表現された絵画を創出する。
・「美術は、直接感覚に訴え物語を語る必要のない音楽のようなものでなければなら
  ない」色彩は音と同じ方法で用いることができるから、音楽に似た絵画を描く

【カンディンスキーの作品の題名について】  音楽の用語と共通

印象(インプレッション)‥‥「外的な自然」からの霊感を素早く描いたスケッチ。
即興(インプロヴィゼーション)‥‥ 無意識のうちに精神の内部から突然生まれるもの。
構成(コンポジション・作曲)‥‥ 最初の構想を時間をかけて幾度も練り仕上げた作品。

カンディンスキーの作品Ⅰ 第一次世界大戦勃発まで

《ミュンヘンの聖ウルスラ教会》1908年
ミュンヘンの聖ウルスラ教会1908年_convert_20100324221156

フォーヴィスムの影響を受けて、色彩豊かな作品。

《印象Ⅲ(コンサート)》1911年
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無調音階によって作曲されたシェーンベルクのコンサートを聴いて感動したカンディンスキーは、その時の“印象”を作品化しました。

・画面には聞き入る聴衆の頭部らしきものや、グランドピアノが想起される黒い三角形が描かれています。
・対角線上に動きを感じさせる構図がとられています。
・黄色い面と黒の対比が目を引きます。聴衆を包み込む音が黄色い色で表現されているようです。
・朱色が効果的に配され青色も加わって心地よい調和を作り出されています。

《即興19》1911年 120×141.5cm
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一日で描かれた作品。カンディンスキーは、「即興」は内的衝動の無意識の表現と述べています。画面全体の溶け合う色彩の上に大胆に描かれている黒い線が、右の青い聖域と左の俗世とをはっきりと表現しています。

《コンポジションⅦのための習作》1913年 水彩 49.6×64.8cm
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内部から湧き出てくるイメージ「内的必然性」を形にする試みとして、水彩やペンによる素描を多く描きました。

・「最初の抽象画」と言われた作品です。何かを特定する具体的な形が全く描かれていない「非対象絵画」です。
・赤や黄色などの配色が美しく、水彩画の透明感が生かされ、繊細な線と相まって不思議な世界が
 作り出されています。
・浮遊する動きのある、生き生きとした作品です。

《コンポジションⅦ》1913年 
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2m×3mの大作。多くのモチーフが描き込まれ、色彩と形が一体となって響き合い交響楽的な世界が創り出されています。
・形の多様さ、色数の多さ、幾種もの線、それぞれがせめぎ合う様に有機的なつながりで表現されています。
・「最後の審判」「ノアの洪水」など終末と復活がテーマとなっています。
・対角線、逆三角形の構図によって描かれており、上方に拡がっていく動きを感じさせます。
・ダイナミックな動きや混沌とした表現が、鑑賞者が画中に引き込まれるような迫力を生み出しています。


《黒い線》1913年 129.5×131cm
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一見すると、花がモチーフとなって描かれているようですが、カンディンスキーは、初期の「完全な抽象的作品」の一つと述べています。
・彩色された色彩の濃淡が微妙な美しさを感じさせています。
・走り書きのような黒い線は、画家の無意識の世界を表わしているようであり、興味深い線となっています。
・この作品の見どころは、透明感のある色彩と黒い線とが作り出す対立と調和です。
・色と線との距離感が、画面にドラマティックな空間(深さ)を作り出しています。

《即興=峡谷》1914年
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この作品は、第一世界大戦勃発直前に描かれました。画面中央下にバイエルン地方の衣装を着た二人、オールが突き出た2艘のボートなど、モチーフ(何が描かれているか)がかろうじて分かりますが、それよりも豊かな色彩の氾濫の渦の中に引き込まれるようなダイナミックな作品です。
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テーマ:アート - ジャンル:学問・文化・芸術

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