「自然の存在感を描くには、表情によってではなく、形態をしっかり捉え、しっかりした構図で描かなければならない。自然には幾何学的な組み合わせがある。対象を幾何形体に分解し、自然を知能で見る」
セザンヌは自然の変化を描きたかったわけではなく、自然の中に【造形】を見つけ出そうとしました。自然は奥が深い。そして、自然の中にすでに存在している形態を見つけ出し単純化して構成して行く。この単純化は形態の抽象化への方向付けを生み出し、「自然を円筒形と球体と円錐体で捉えなさい」という言葉は、ピカソやブラックなどのキュビズムを生むきっかけとなりました。

ピカソ《オルタの貯水池》1909年

ブラック《レスタックの家》1908年

【サント=ヴィクトワール山】
セザンヌ《サント=ヴィクトワール山》 1904~06年

「自然は、その表面に現われているよりもずっと奥深い」
セザンヌは、故郷のサント=ヴィクトワール山を、30年間にわたり何度も繰り返し描いています。自然から受けた生き生きとした感動をいかに画面に定着させるかが、生涯のテーマでした。
自然を平面的な広がりより、奥行きのある存在として捉え、自然の奥にすでにある形態を構成し描きました。
使われているのは、緑色と茶色と青色だけ。その色彩のバランスと、垂直の四角い色面を連続させる筆触(色彩のモザイクのような)が、軽快なリズムとどっしりとした存在感をもたらしています。
また、セザンヌの言う「空気を感じさせる青色」を、空と山に使うことで三次元の奥行き(寒色は退く)を強調しました(空気遠近法)。
【デフォルメ】
デフォルメとは?
・対象物を変形し歪曲(ゆがめる)すること。 ・対象の特徴を誇張、強調する表現方法。
古典絵画⇒自然を模倣し忠実に再現
近代美術⇒主観や感情を強調して描きたい時や、画面の構成上必要な場合は、
変形し歪めて表現するようになり、それが個性的表現となりました。
《赤いチョッキの少年》1895年

頬杖は、ルネサンス以来用いられてきた伝統的なメランコリーを表現するポーズ。しかしセザンヌは、そのポーズの絵画的な構成上の面白さに関心があり、右腕は、構図のバランスをとるために極端に長くのばされました。エル・グレコの影響が感じられます。
エルグレコ 黙示録第6章より《第五の封印》1608年

エル・グレコ(1541-1614)は、スペインの宮廷画家です。
人体の比率を無視して、異様に引き伸ばされて(デフォルメ)主題を強調しています。
マニエリスム《均斉美を壊す16c絵画様式》の画家です。
【塗り残し?】
《温室のセザンヌ夫人》1891年

セザンヌは筆が遅い画家でした。モティーフを解釈することに時間をかけ、熟慮を重ねながら筆を動かしていく。もうこれ以上色を塗る必要がないと感じれば、キャンバス地が残っていても筆を止めてしまいました。
また、塗り残し(キャンバス地)があることによって、絵画とは平面であることが認識できます。
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