ミニマル・アートが起きるまで
難解な芸術表現になり過ぎた抽象表現主義の退潮とともに現れてきた、ネオ・ダダ(ジャスパージョーンズ)やポップアート(アンディ・ウォーホル)は、大衆文化から誰でもよく知っている物やイメージをモティーフに描いているため、その結果として、何でもアートになりうる状況と可能性を作り出しました。その安易とも言える表現方法に反発して、本来のモダンアートが追求してきた表現を更に推し進めようとする一部の芸術家たちが現れました。
モダンアートは、平面である絵画からイリュージョン(遠近法・明暗法)や物語などの文学的要素を排除して、絵画の「自己純粋」を追求してきました。それを更に追求して、形態や色彩を最小限に切り詰めたアート、最小限アート 何も表現されていないアートが登場してきました。【ミニマル・アート】です。作品から可能な限り手技の痕跡を取り去り、均質で単純な形態を反復する。作品は、作者の主観や感情、見る者へのメッセージなどは何も表現されておらず、作品から意味を消し去っています。反復性、対象性、連続性が特徴のアートです。
ミニマルアートの先駆けとなったのが、ジャスパー・ジョーンズの「旗」を見てインスピレーションを得たフランク・ステラでした。ステラは、ジョーンズの「旗」への意味付けに興味を示したのではなく、旗のストライプの繰り返しに注目したのです。ストライプだけを取り出して描き始められたのが、一連のブラック・ペインティングでした。
フランク・ステラ《旗を高く掲げよ》1959年

ジャスパー・ジョーンズ《旗》1954~55年

ドナルド・ジャッド《無題》
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ドナルド・ジャッド《無題》1967年

■ドナルド・ジャッド (1928~1994年) アメリカ
ミニマルアートを代表する作家の一人。
絵画のイリュージョン(奥行き感)を否定して立体作品を制作しました。箱を壁に等間隔で積み上げた(スタック)作品は、自身が主張する絵画でもない(立体だから)、彫刻でもない(壁にかかっているから)「特殊な物体」を表現したものです。

ジャッドは、作品を提示するだけではなく、作品が設置されることによって生じる空間の変化を鑑賞者が体験することをは意図しました。見ることより、“その場を体験する作品”を制作しました。
ジョン・マックラケン《無題》1967~1970

■ジョン・マックラケン(1934年~ )アメリカ
厚板をムラなく樹脂塗装し、壁に立て掛けただけの作品です。色彩そのものを物体化しました。
ロバート・モリス《無題》1965年

ロダン《カレーの市民》1888年

■ロバート・モリス(1931年~ )アメリカ
主観的な表現をことごとく切りつめたかのように処理された表面は、工業製品を思わせる無表情さです。
ロダン作「カレーの市民」は、近くに寄ったり離れたりして、表情・着衣のひだの深さ・筋肉などを鑑賞します。彫刻が語りかける歴史や感情も鑑賞の対象となります。従来の彫刻の鑑賞の方法です。
しかし、そういった見る者へのメッセージや意味が何も無いミニマル・アートでは、一目で作品全体(4個の立方体)を理解することが出来ます。作品から可能な限り手技の痕跡を消し去り、単純な形態を連続させてイメージを希薄化させています。作品が置かれた空間も作品です。
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