古典的絵画を近代的精神で最初に変革したマネから始まったモダンアートは、100年の時を経て、ミニマル・アートの登場で、行きつくところまで行ってしまいました。
モダンアートは、絵画からイリュージョン(見せかけの奥行き感‥遠近法)や物語などの文学的要素を排除して、絵画本来の平面性を追求してきました。それを更に追求して、形態や色彩を最小限に切り詰めたアート、最小限アート 何も表現されていないアートが登場してきました。【ミニマル・アート】です。作品から可能な限り手技の痕跡を取り去り、作者の主観や感情、見る者へのメッセージなどは何も表現されておらず、作品から意味を消し去ってしまいました。
絵画の「空間」を見ることによって、モダンアートの進み行きを見て行きたいと思います。
遠近法(見せかけの奥行き感‥イリュージョン)
遠近法とは 目に映る像を平面に正確に写すための技法です。
15世紀,画面の中に立体的な絵画空間を生み出す技法としてルネサンスの時代に発明されました。描いたものを立体的に見せ、それがどのくらい遠くにあるかを示す技法です。線遠近法・短縮法・空気遠近法(遠くへいけば行くほど大気の関係で青みがかって見える状態を利用)・ 色彩遠近法(進出色と後退色、色の性質を利用)などがあります。
絵画は、三次元を二次元(平面 キャンバスなど)に変換して、二次元空間の中に三次元を再現しています。その変換方法が遠近法です。
【線遠近法(透視図法)】 線で構成された空間
線遠近法で奥行きや立体感を表す場合に使われる図法。消失点と目の高さ(水平線)が作図の基本。だんだんと遠くなるに従って物体を小さく描くことができるために見た感じの遠近感を表現することができます。下の二つの《受胎告知》は、消失点(バニシングポイント)が一つの一点透視図法です。他にもニ点透視図法・三点透視図法があります。
ラファエロ《受胎告知》1502~03年 27×50cm ヴァチカン美術館

柱が奥へ行くほど低く描かれ、床の長方形の模様も、画面奥へ行くほど小さく描かれています。外部の景色の一点(消失点)に向かって奥行き感が深められています。
一点透視図法

カルロ・クリヴェッリ 《聖エミディウスを伴う受胎告知》1486年
207×146 ロンドン・ナショナルギャラリー

この作品も一点透視図法で描かれた祭壇画です。画面奥の方に立つ人物を消失点として、非常に強い遠近感を感じます。
平面の中に、いかにも三次元の世界があるように描くための方法として遠近法が使われています。
画面手前に描かれているリンゴと瓜、そしてプレート。図像学ではリンゴは原罪を、横に描かれた瓜が原罪を取り除く物として解釈されますが、瓜の描かれた位置や描き方により、この作品が絵画の中に描かれた祭壇画のようです。
【短縮法】
ある程度長いものをその長さの方向から眺めると短縮されて見えることから短縮法と言います。
マンテーニャ 《死せるキリストへの哀悼》 1490年代

キリストの胴体と脚はしっかり短縮されているが、それに比べて頭部が不釣合いに大きく描かれています。キリストの顔を強調することによって、深い哀悼の念を表現しています。
アンドレア・ポッツォ《イエスズ会の伝道の寓意》1691~94年

遠近法の組み合わせによって、遥か彼方の天に続く空間を表現しています。神の存在を感じさせるダイナミックなイルージョンです。
ポッツォは、遠近法に関する著書『絵画と建築の遠近法』を書いています。
【日本美術の空間表現】 逆遠近法と吹抜き屋台
《源氏物語絵巻・夕霧》 12世紀・平安末期

奥に行くほど幅を狭くする西洋の遠近法とは逆に、日本の絵巻物は奥に行くほど幅を広くする「逆遠近法」で描かれています。また、屋根や天井・壁を取り払って、斜め上から俯瞰する「吹き抜け屋台」という手法も用いられています。横長の絵巻物では、登場人物の配置が分かりやすく、また何よりも早くストーリーの核心をつかみ易いのです。
スポンサーサイト