■ 奥に向かうフェルメールの空間/横に広がるマティスの空間
フェルメール《恋文》1870年頃

遠近法による空間構成に加え、恋文を手にする女性とメイドがいる部屋を、手前の部屋から見ているという複数の空間が存在し、部屋の奥に至る室内空間が見事に描かれています。鑑賞者が画面に入り込み、奥に進めそうな錯覚に陥ります。
マティス《赤いアトリエ》1911年

アトリエの空間すべてを、赤色に置き換えて描いた作品です。様々な事物は隣り合わせの物と関連しながら、横に広がるかのように画面内を巡回しています。
画面に描かれた絵はすべてマティス自身の作品で、マティス個人の絵画史を見ているようです。
■ 空間的イリュージョンと絵画的イリュージョン
イリュージョンとは‥ 幻影、錯覚、錯視。二次元の絵画平面にあたかも三次元の立体、空間が存在しているかのように見せる誤視覚による効果をいいいます。
モダンアートは、遠近法(見せかけの奥行き)が生みだす空間的イリュージョンを排除して、平面上に浅い奥行き感を作り出す絵画的イリュージョンによる芸術的な表現を追求してきました。戦後の現代美術は更に徹底して画面からイリュージョンを撤廃する方向に向かいました。
空間的イリュージョン(具象絵画)
レオン・ジェローム《The End of the Siting》

絵の中に入り込んで、歩き回れるような感じがする絵画空間です。
絵画的イルージョン(抽象絵画)
作品の中に入り込むことはできないが、視覚によって浅い空間(前後感)を感じることが出来るキュビスムの絵画
人や物を平面に細分化・解体し、画面上で組み合わせたり重ね合わせたりして再構成されます。遠近法による絵画空間とは異なる新しい空間が作り出されます。
ピカソ《カンワイラーの肖像》1918年

早くからキュビスムの作品を寡占的に扱った画商の肖像画です。
色彩が抑えられ、細かい平面への断片化がさらに進んで画面をいっそう複雑なものにしています。分析的キュビスムの究極的な表現に近づきつつある作品です。どの部分が「図」でどこが「地づら」なのか区別できない平面性が、キュビスムと現代美術を結びつけています。
キュビスムの見どころは、灰色系や茶色系の限られた色で濃淡がつけられ、画面が美しく保たれているところ
にあります。微妙に移り変わる色彩の濃淡が美しい。
【絵画的イリュージョンによって平面上に浅い空間が感じられる現代美術の作品】
ハンス・ホフマン《Combinable Wall》1961年

「押しと引き」 後退色(寒色)と進出色(暖色)による前後感
クリフォード・スティル《No.2》1957年

図と地の関係が曖昧なため、ハッキリした前後感が無い
ジャクソン・ポロック《ナンバー12A.1948黄色灰色黒》

無数の重層的な線が作り出す平面上での浅い前後感
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