フランス革命による貴族社会の衰退と共に、曲線を多用した装飾的で耽美なロココ芸術が衰退すると、反ロココ芸術の立場で、古代美術(ギリシャ・ローマ)に規範を求め、「理想の美」を追求した新古典主義が台頭してきます。そして同時代、古代に理想を求めた新古典主義の対立軸として「個人の感情」を描き出そうとしたロマン主義が生まれてきます。
【新古典主義の描き方】
ドミニク・アングル「ルイ13世の誓願」1824年 421×262cm
![image[3]_convert_20101221165058](http://blog-imgs-42.fc2.com/a/r/t/artprogramkt/20101221165236286.jpg)
ドミニク・アングル(1780~1867)
ジャック=ルイ・ダヴィッド(ナポレオンの首席画家として、ナポレオンと共に運命を共にした)に師事し、ダヴィッド失脚後、新古典主義を継承してフランス・アカデミーの中心人物として活躍しました。
新古典主義のアングルは、イタリア・ルネサンスの古典絵画に規範を求め、宗教画・歴史画・肖像画を多く描きました。形態を尊重するために厳しいデッサンに力を注ぎ、ゆるぎない理想的な造形美を追求しました。
「ルイ13世の誓願」は、天に召されていく聖母(聖母被昇天)に、王冠と黄金の杖を差し出して誓願をしているルイ13世の姿を描いた宗教画です。
左右に開かれたカーテン、それを支える二人の天使、灯りを支える小さな天使たちも左右に配され、左右対称の安定感のある構図で描かれています。聖母の表情は気品と高潔な雰囲気が溢れています。
ハッキリとした形態で筆跡を残さずに、陶器の表面のように滑らかに描かれています。
![image[3]](http://blog-imgs-42.fc2.com/a/r/t/artprogramkt/20101221172914e99.jpg)
ロマン派の描き方
ウージェーヌ・ドラクロワ《ピエタ》1843~1844年355×475cm
パリ、サン=ドニ・デュ・サン=サクルマン聖堂壁画

ウジェーヌ・ドラクロワ(1798~1863)フランス ロマン派を代表する画家
ルネサンス・ヴェネチア派のティツィアーノ、オランダ・バロック絵画のルーベンス、ジェリコー(古典主義を基本としながらも人間の現実社会を描き、ロマン主義を芽生えさせた)の影響を受け、ロマン派を発展させた画家です。芸術アカデミーの会員に許可された時、新古典主義の権威ドミニク・アングルに「私はこの愚かな世紀と決別したい」と言わしめた程、新古典主義と対立しました。
「ピエタ(慈悲・悲しみ)」は、聖母マリアが、亡くなって十字架から降ろされたキリストを抱く聖母子像です。
聖母マリアを始めイエスを支え見守る人々の感情が、その表情に描き込まれています。
残されたタッチや激しい色遣いによって、画面が振動して迫って来る様な感情表現です。
形態を優先している新古典主義では、色彩はあくまでも輪郭線に沿うかたちで描かれているため、調和がとれていて静謐な印象を受けますが、ロマン派では個人の感情を表現する激しい色遣いや強い筆触が優先されています。
このタッチを残し、感情を描く筆遣いが、後の印象派へと引き継がれていきます。
ドラクロワ《ダンテの小舟》1822年 189×264cm ルーヴル美術館

『ダンテの小船(地獄の町を囲む湖を横切るダンテとウェルギリウス)』は、ドラクロワのサロン初出品作品です。イタリアの詩人ダンテ「神曲」より、地獄篇の一場面を描いたものです。
赤い布を頭に巻いた主人公のダンテと案内人である詩人ウェルギリウスが地獄の川を下ってゆく姿が描かれています。恐ろしい形相で小舟にしがみつき這い上がろうとする死者達、激しく揺れて浮き沈みする小舟。劇的なシーンの迫力が伝わってきます。
又、背後で赤々と燃える町や赤い布と、青い布や暗い川との色彩対比、さらにダンテの掲げた手を頂点とする三角構図もドラマチックな表現を導き出しています。
ドラクロワ《アルジェの女たち》1834年180×229cm ルーヴル美術館

1832年に旅行で訪れたモロッコ・ナイジェリアでのスケッチを元に、帰国してから描かれました。
アルジェのハーレムの女性達を描いた作品です。
絨毯や壁に描かれた文様や扉、そして女性達のコスチュームは異国情緒たっぷりで、ハーレム独特の雰囲気も良く伝わってきます。窓から差し込む光に色彩が輝きを増し、赤と青の補色対比の効果が、この作品に優雅さをもたらしています。
ドラクロワにとって、北アフリカの旅で何よりも印象的だったのは、異国の強い太陽光が織りなす色彩の輝きでした。
ルノワールは、この作品を「世界で一番美しい絵画」と賞賛し、ピカソはこの作品からインスピレーションを受けて「アルジェの女たち」を描きました。
ドラクロワは、内面的な要素を強く表現するために、強い筆触で動きのある構図や補色などの強い色遣いで描きました。ロマン主義を確立し、やがて19世紀後半の印象派の画家達に多大な影響を与えていきます。
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