《デペイズマン》とは、シュルレアリスムの常套的方法論で「不一致の一致」と訳されます。物を本来あるべきところから別のところへ移すことで新しい美やイメージを創り出す方法です。最初に“驚き”を与えることによって、鑑賞者のそれまでの物の見方や感じ方、常識、固定観念(思い込み)を白紙にさせ、新しい思考回路や新たな感覚を鑑賞者の内に新しく呼び起こさせようとするのがシュルレアリスムの作品です。
《記憶の固執》1931年

例えばダリの作品の中で最も知られ、ダリの代名詞にもなった作品《記憶の固執》(1931年)を見てみましょう。画面中央に横たわる不思議な物体はダリの自画像です。金属で固いと思われている時計が柔らかく描かれていることや(カマンベール・チーズを食べていた時に思いついたという)、まるで時計を食するかのような蟻の群れに驚きます。本来のイメージを異なるイメージに移し替えることで驚きを生み出すデペイズマンの技法が用いられています。
《生きている生物(速い動き)》1956年

この作品では、テーブル上で静止して動かないはずの静物が、空中に浮き上がり高速で動いている様子が描かれています。不動である筈の静物が高速で動くことに驚かされます。物が本来置かれる状態を変えたデペイズマンです。現実には起こりえぬ光景の視覚化により、静物は動かぬもの(死せる自然)という固定観念が崩され、現実の中のもう一つの現実の存在を強く感じさせる作品です。
次回は、ダリと共にシュルレアリスムを代表するベルギーの画家《イメージの魔術師》と呼ばれている、「ルネ・マグリット」をご紹介します。
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