
「私の絵画はイーゼルから生まれない。私は描く前にキャンバスを木枠に張ることはほとんどない。私は堅い壁か床にキャンバスを留める方が好きだ。堅い表面の抵抗が必要なのだ。床のほうが私にはやりやすい」 ジャクソン・ポロック
【ポロック独自の技法】 身体全体を用いて描く
1946年末から、ポロックは大きなキャンバスを床に置き、キャンバスの周りから粘度の低い油彩顔料・エナメル・自動車用塗料を筆や棒で滴らせたり(ドリッピング)・注いだり(ポーリング) ・ まき散らしたり(スプラッシュ)してオールオーヴァーの「ポード絵画」を描き始めた。


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《五尋の深み》1947年

青が基調色となっているので、題名のように海の深さや海底がイメージされます。絵の具の物質感に圧倒されます。線だけが描かれ、何かを指示するものや前景・後景となるものが描かれていないにもかかわらず、画面には、ポロックが作り出した“深さ”が存在します。
《「1」・ナンバー31》1950年 295.5×530.8㎝

何かがイメージされて描かれた絵画ではない。縦横無尽に走る線と、散りばめたように画面を埋め尽くす無数の点が、重厚な画面を作り出しています。黒、白、茶、青の線が複雑に絡み合い面面全体をほぼ均等に覆い(オール・オーヴァー)、生々しい線の乱舞に見る者は圧倒されます。網のように線が錯綜し、瞬時には全体を捉えきれない混沌とした大画面を眼で追っていくと、絵の中にからめとられてしまうような感覚に陥いります。まさに体感する絵画です。黒や白の線を辿ると、画面奥に後退したり前面に出てきたりと互いに前後しながら重なり合い、そこに奥行きを感じさせる空間(絵画的イリュージョン)を作り出しています。モダンアートの平面化の流れを受け継ぎ、横への広がりと奥行きを持った平面をポロックは具現化しました。
《秋のリズム・ナンバー30》1950年 266.7×525.8㎝

《ナンバー31》に比べ、線の密度が低いので線の動きを強く感じ取ることができます。上部が空けられ反対に下部に線が密集しているので画面に流れができています。勢いにまかせてやみくもに描いたように思われますが、ポロックは何度も中断しては、考え考えしながら長い時間をかけて制作しています。黒と白の線が作り出す明暗を褐色の線が和らげ、色彩による心地よさを生み出しています。調和した色彩は「秋」を感じさせるに相応しい。
次回は、ポロックの新しさについて解説いたします。
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