色彩と線が分離した表現
《緑の袖のルーマニアのブラウス》1937年

色彩と線それぞれが表現力を持ち、互いに弱め合わないように分離する
女性の輪郭線と色が、ずらされて表現されています。平面性が強調されながらも、女性は調和のある色彩とあいまって画面に同化しています。立体派から受けた影響で、左手が不連続な形で繋ぎ合わせた様に表現されています。
《紫の服ときんぽうげ》1937年
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色彩と競う線の強さ
まず目に飛び込むのは強い線です。デッサンの流麗な線が油彩画でも同じように発揮されています。
踊るような曲線が、装飾化された画面を更に装飾化しています。
強い線に対抗するかのように、色彩も黄と紫、赤と緑色のように補色で強く表現されています。
《デイジー》1939年 122×96.5cm

目線が強く惹きつけられる不思議な人物表現
赤の色紙を切り抜き、キャンヴァスに貼り付たような平面的な人物。
立体と平面が同居するマティスの空間
際立つように人物が太い輪郭線で描かれているため、見る者の視線が分散され、テーマである「デイジー」が中心を失い全体化しています。
《音楽》1939年 115×115cm

色彩、線、形が共鳴し合い、音楽的なハーモニーが、画面構成や色彩のなかに反響している。
右上がりの対角線上に二人の女性を並べた単純な構図。描かれたものそれぞれが、構図や色彩のバランスをとる役目を果たしています。
図案化された植物の葉の形が画面を浮き立たせています。
女性たちのプロポーションが大きく変えられていますが、不自然さが感じられません。
切り絵で配置や構図を考える

モチーフの形に切り抜いた紙をキャンヴァスに張り付けて、最良の構図を見つけ出す。


《貝のある静物》1940年
《マグノリアのある静物》1941年

空中を浮遊するかのように並置されたモティーフ
マティスが「私のお気に入り」と語っていた作品。より平面的で奥行きが無い表現です。花瓶下の小皿を除きすべてが立面で描かれていて、画面の中をモティーフが巡回しています。
最後の油彩画 病気のため、1948年を最後に油彩画の制作を断念する。
《赤い室内、青いテーブルの上の静物》1947年 116×81cm

70歳代後半でも衰えぬ制作エネルギー
アラベスクの曲線に代わってジグザグ模様が空間を占有しています。装飾の絵画的効果を知り尽くしたマティスしかできない表現です。黒のジグザグ模様が画面から飛び出るのを、青いテーブルとリンゴ、皿、花瓶が重しとなって押さえています。
丸い壁飾り、丸いテーブル、丸いリンゴ、丸によって画面が単調になるのを、皿を不定な形にして防いでいます。
扉の斜線が唯一奥行きを感じさせ、作品に厚みを持たせています。
色と色との隙間の白が、色彩の簡潔な表現の美しさを強調しています。
《エジプト風カーテンがある室内》1948年 115.5×89cm

黒い背景なのに明るい室内
カーテンの大振りな模様がこの作品を魅力的なものにしています。
赤・緑色など他の色を輝かせながら、自らも色彩として空間としての役割を果たすマティスの黒色
ヤシの葉が、明るい光の形となってシャワー状に降り注いでいます。活き活きとした室内の雰囲気と光が溢れた作品です。
「ヴィヴィットな表現」とはこのような作品の事を指すのでしょう。
《大きな赤い室内》1948年 61×50cm

油彩表現の集大成 油彩画としての最後の作品
絵画の装飾性、色彩による空間表現、立体の平面的な解釈、色彩と線が分離した表現など、マティスが生涯かけて追及してきた平面の新しい表現が示されている作品です。
マティスが最も好んだ「赤」が空間を占めています。
塗られていない白いキャンヴァス地が、ハイライトの役目を果たして画面を引き締め、更に二次元の平面性を強調しています。
画面は四等分され、四つの主要なモチーフは黒い椅子を中心として結び付いています。






マティスの作品は、模写を困難にさせるほどの微妙な絵の具のうす塗りが特徴です。
マティスの作品が実際の大きさよりも大きく感じられるのは、各モチーフの全体像を画面に収めず、一部が画面の端で切られている構図になっているからです。外に向かう拡張性は、マティス絵画の特質の一つでもあります。
自然や物、人体、空間をいかに絵画的に表現するか、絵画の生成に関する問題と真剣に取り組んだ画家です。マティスが切り開いた絵画の革新的な表現法は、今日も多くの芸術家が受け継ぎ様々な展開を見せています。
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