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分析的キュビスム 形態の分析、解体、再構成。
・描く対象を様々な視点から見て分析する(視点の移動を取り入れる)
・断片的な面に解体する(立体をすべて単純に平面化する)
・解体した面を画面上で再構成する(切り子状の面の集合で表現)
1908年にブラックは、セザンヌの「自然を円筒形と球体と円錐形で捉えよ」という絵画理念や、風景を幾何学的に捉えた作品に触発され、画面が幾何学的に構成されて画面全体が立方体の集積のように見える風景画を描きました。
ジョルジュ・ブラック《レスタックの家》1908年

ピカソ《オルタのレンガ工場》1909年 ピカソも分析的キュビスムの手法で描きました。

オルタの町が多視点による多数の「立方体」が集まったように描かれています。それぞれの面が「片ぼかし」によって色付けされ、立体感と透明感が作り出されています。
キュビスムを特徴づける「片ぼかし」と「切り子面」「片ぼかし」 → 輪郭線に近い部分の色を一番濃くして徐々に薄くしていく着色法。
セザンヌが「パサージュ」と呼んで「面」を滑らかに移行させた技法。
「切り子面」 → 幾つもの面や濃淡をつけるためにカットされた切り子ガラスの表面
切子藍色船形鉢

《リキュール酒の瓶のある静物》1909年

画面全体が幾つもの切り子面で構成されています。酒瓶、雄鶏、ストローが入ったコップ、新聞が描かれているのですが、何が描かれているのか判別しにくい。しかし、結晶体のように様々に屈折した面が空間や物の量感を作り出しています。情感を感じさせない造形性に徹した画面構成からは、ピカソの新しい表現に突き進む気迫らしきものを感じます。
《フェルナンドの肖像》1909年

恋人のオリヴィエの肖像と下は彫像です。陰影をつけた幾つもの面に分解され、顔面や体、花瓶が細かい切り子ガラスのような面の集合になっています。美貌の恋人を見たままに描くのではなく、頭で考えた見方、描き方で表現しています。彫刻作品は分析的キュビスムの立体への応用です。
《フェルナンデスの頭部》1909年
キュビスムと知覚認識について 「図柄と「地づら」の関係
ルビンの杯

黒を背景(地づら)とすると白い杯(図柄)に見え、反対に白を背景(地づら)として見ると、二人の顔(図柄)が現れます。人は「図柄」と「地づら」の関係で物や空間を認識しています。キュビスムの画面は、この関係が無くなっているので空間が複雑化しています。
ティエリの法則

「ティエリの法則」では、線で描かれた立体の輪郭線が出っ張ったり引っ込んだり、平面に凹凸が見えます。キュビスムの作品では、幾何学的な画面を組み立てている面の稜線が複雑化され、画面に立体感や前後感が作り出されています。
【図柄と地づらの関係が無いキュビスムの空間を受け継ぐ現代美術】アメリカの抽象表現主義の画家達が同じ空間を作り出す。
ジャクソン・ポロック《秋のリズム》1950年

デ・クーニング《発掘》1950年
新しい空間を作る 「見たとおりに描く」から「考えたとおりに描く」人や物を平面に細分化し解体する。画面上で組み合わせたり重ね合わせたりして再構成される。遠近法による絵画空間とは異なる新しい空間が作り出される。
《ヴォラールの肖像》1910年


ピカソと関わりのあった画商の肖像画。画面を切り刻むような幾本もの線が切り子状の不連続な面を作っています。背景と身体の細かく分断された面が相互に入り込んでいます。それによって、物と空間の境が曖昧になり、遠近法的な奥行き感が失われて浅い前後感だけの均一的な絵画空間が作り出されています。多視点によって「面」に分解された頭部は量塊としての存在感が出るように再構成され、光りの当たった厳めしいヴォラールの顔貌が、平坦にリズミカルに並べられた画面の中から浮かび上がってきます。
《カーン・ワイラーの肖像》1910年

早くからキュビスムの作品を寡占的に扱った画商の肖像画です。色彩が抑えられ、細かい平面への断片化がさらに進んで、画面をいっそう複雑なものにしています。分析的キュビスムの究極的な表現に近づきつつある作品。どの部分が「図」でどこが「地づら」なのか区別できない平面性が、キュビズムと現代美術を結びつけています。
デビッド・ホックニー《画家の母親》1985年

「フォトモンタージュ」と呼ばれる写真技法の作品です。キュビスムの表現方法と同様に様々な角度から撮った写真を貼り合わせて、「同時視覚的」な映像で母親を表現しています。
《マ・ジョリ(私の可愛い人)》1911~1912年

形の細分化と再構成が徹底されるに従って画面から具体性が消え、抽象度が増していきました。ピカソ自身も少し不安になったのか、文字やト音記号、五線譜、カーテンの紐をそれとなく描き込んでいます。「MA JOLIE」と書かれた文字が目につきますが、フエルナンドと別れつつあったピカソが、次の恋人エヴァへ宛てた愛の言葉です。
《パイプをくわえる男》1911年

楕円の変形キャンヴァスに描かれています。(人間の視野は四角と思われがちであるが、実は楕円である)。男の姿は画面の中に溶け込み判然としなません。キュビスムの見どころは、灰色系や茶色系の限られた色で濃淡がつけられ、画面が美しく保たれているところにあると思います。微妙に移り変わる色彩の濃淡が美しい作品です。
次回は「総合的キュビスム」です。
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テーマ:アート - ジャンル:学問・文化・芸術