小林孝宣(たかのぶ)《森》2001年

小林孝宣(こばやし たかのぶ・1960年東京生まれ/愛知県立芸術大学油絵科卒)
大学卒業後、96~97年文化庁の在外研修員としてバンコクに滞在します。2002年より、バンコクと東京の2都市で制作活動を行っています。強い光、優しい光など様々な「光」や個人的なイメージがテーマとなっています。日常の静かで“なごみのある光景”が独自の抑揚を抑えた表現で描き出されています。
「森」の中の木立の間を満たすような、静謐で温かみのあるやさしい光。夢の中のような不思議な空間です。具象絵画ではありますが、平面性が強く、木々のディテールには全くこだわりがありません。何か(思い出・記憶)を呼び起こすための形態なのでしょう。作品の中へと想像力を駆り立ててくれます。
「光とか、夏とか、こどものころに培ったイメージ、自分の中にあるイメージが、作品のベースになっている」 小林孝宣
小林孝宣《スイミングプール》1998年

印象派が描いた木漏れ日に癒しを感じるように、人間は木漏れ日に安らぎを求めます。
エル・グレコ《トレドの眺望》1595年~1610年

イタリア滞在中(10年間)ティツィアーノ等のヴェネツィア派の色彩を学ぶ。スペインではその個性的で奇抜な構図や色彩により宮廷画家の道が閉ざされます。
宮廷画家の道を断たれて失意のうちに戻って描いた「トレドの眺望」は心象風景ともいえる作品。心のうちが深緑と暗い青色で表現されています。
エル・グレコ《聖マウリテレスの殉教》1580~82年

デフォルメされた人体、遠近法を無視した奇抜な構図、非現実的な色彩。この作品により宮廷画家への道が閉ざされました。しかし天上の天使たちによって導かれていく殉教者たちの姿が、鮮やかに厳かに描かれています。
非現実的な色彩で心象を表現したゴッホや、ピカソなどが影響を受け、エル・グレコは再評価されました。
ゴッホ《星月夜》1889年

現実世界の風景を、大胆に変えて自分の内面の心象風景に変えていく。現実に縛られる事が無い描写で、目に見えないもの(精神性)を如何に画面に表現するかを試みました。星、月、夜空の大胆なうねりの筆の跡にゴッホの感情が映し出されています。
ピカソ《アビニョンの娘たち》

裸婦の空間を埋める背景が、「トレドの眺望」の空の描き方に影響を受けています。
心動かされた作品が視覚的な記憶となって蓄積される。ピカソは、それらをヒントにして、新しい表現を創出する能力に長けた画家と言えると思います。







~西洋美術(ルネサンス以降)二つの流れ~
美術史家ハインリッヒ・ヴェルフリン(スイス)は、ルネサンス以降の西洋の絵画様式を「絵画的(色彩)」な様式と、「非絵画的(線)」な様式に、二分しました。西洋美術は「非絵画的(線)」な様式と、「絵画的(色彩)」な様式が、入れ替わり立ち替わり現われて、その歴史を形作ってきたという説を唱えています。
「非絵画的(線的)」な様式 【フィレンツェ派】ラファエロ・ボッティチェリ
形が明快ですっきりしていて輪郭線を辿ることができます。輪郭線に重きを置いています。仮に色彩を抜いたとしても線が残ります。
ラファエロ(1483~1520)《牧場の聖母》1506年

幼子二人に優しい眼差しを注ぐ聖母マリア。マリアの両手に包まれて立つキリストはヨハネが差し出す十字架を握っています。イエスとヨハネの師弟関係を表現。赤と青の着衣は典型的な聖母マリアの服装です。背景に広がる澄んだ風景が、マリアの美しさを際立たせています。ルネサンス以降の聖母子像の典型的な構図(安定した三角形の構図)輪郭線がハッキリしていますので、仮に色彩を抜いたとしても形が残ります。フィレンツェ派の特徴です。
ボッティチェリ(1444~1510)《ヴィーナスの誕生・部分》1485年頃

線の絵画であることがよく分かる部分
「絵画的(色彩)」な様式 【ヴェネツィア派】ティツィアーノ
ティツィアーノ(1488~1576)《マルシュアスの皮剥ぎ》1576年

ティツィアーノの最晩年の筆遣いは、事物の輪郭を意識せず大胆に色彩を施す描法で、仮に色彩を抜いてしまうと絵画として成り立たなくなってしまいます。これがヴェネツィア派の特徴です。
ルネサンス期フィレンツェ派 15世紀~16世紀 ラファエロ/ボッティチェリ
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新古典主義 18世紀終わり~19世紀中頃 ダヴィッド/アングル 理想美の追求
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フランス・アカデミズム絵画 19世紀 ジェローム/カバネル
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幾何学的抽象美術 20世紀 モンドリアン
ルネサンス期【ヴェネツィア派】 ティツィアーノ/ジョルジョーネ
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マニエリスム 16世後半 エル・グレコ 内面性重視・誇張・デフォルメ
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バロック 17世紀~18世紀 カラヴァッジョ/ルーベンス/レンブラント
明暗の対比・劇的な感情表現・臨場感
↓
ロマン主義 18世紀後半~19世紀中頃 ドラクロワ/ジェリコー 感情を激しい色遣い(補色対比)やタッチで表現
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印象主義・後期印象主義 19世紀~20世紀 マネ/モネ/ルノワール/ゴッホ/セザンヌ/ゴーギャン







モンドリアン《木々のある風景》1912年

モンドリアン(1872~1944)
1872年オランダに生まれ、アムステルダムの美術学校で学んだモンドリアンは、1911年パリにアトリエを構えました。当時の前衛芸術キュビスムに触れ、具象的な表現から完全な抽象に移っていきました。1917年オランダの芸術運動に参加して、自ら唱えた「新造形主義」の原則に従い三原色と無彩色、水平線、垂直線による幾何学的抽象絵画を創始しました。
《コンポジション》1929年

1912年に描かれた「木々のある風景」は、水平線と垂直線の構図に至るまでの抽象化のプロセスが理解しやすい作品です。 単純化と平面化、さらに簡略化が進み、樹木は垂直線と水平線と円弧で表現されています。
モンドリアン《コンポジション》1919年

【モンドリアンの世界認識】
目の前の世界を単純化していくと、すべては普遍的なものである水平線と垂直線で表現される。
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